●9条改憲より恐ろしい「緊急事態宣言」条項!
10月下旬に新聞に掲載された意見広告 ( PDFファイルへ ) が警告した 「 緊急事態宣言を可能とする憲法改正の危険性 」 が来年(今年)夏の参院選挙後、現実のものになる危険が出てきた。
安倍首相が11月10、11日の衆参予算員会の国会閉会中審査で、憲法改正の極めて重要な課題として、「 緊急事態条項 」 の必要性を強調したからだ。
自民党は、来年の参院選で与党が77議席以上当選し参院で3分の2以上を占めれば、憲法改正の発議を狙うことができる。
自民党憲法改正草案の緊急事態宣言条項には、
「 内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる 」 とある。
緊急事態が宣言されると、「 何人も、法律の定めるところにより 」 「 国その他公の機関の指示に従わなければならない 」 という内容だ。
●独裁国家をつくったナチス・ヒトラーの手口
冒頭に紹介した意見広告は、10月下旬に朝日新聞などに掲載されたもので、
「 ナチス憲法 あの手口に学んだらどうかね 」 という麻生太郎財務相の発言を取り上げながら、自民党憲法改正草案の 「 緊急事態宣言 」 条項の危険性を訴えていた。
意見広告を出したのは、一人一票の実現に取り組んでいる升永英俊弁護士、伊藤真弁護士らだ。
麻生財務相が 「 学んだらどうか 」 と言った手口と言えば、
ナチス・ヒトラーが、1933年3月、行政府( 内閣 )に立法権などを与えた全権委任法によって、国民の知らないまま憲法を変えて、独裁国家をつくった歴史が思い浮かぶ。当時もっとも民主的と言われたワイマール憲法が停止させられ、ナチス・ヒトラーが権力を握った。
だが、ナチスが圧倒的多数を占めたのは、全権委任法の結果だけではない。
●ナチスに反対した7割が緊急事態宣言でほぼ全員賛成に!!
升永弁護士は、ナチス・ヒトラーが選挙で圧倒的多数の議席を握った事情を、こう説明する。
「 1933年2月28日に、ドイツでは、『 緊急事態宣言 』 が出た。
1933年2月28日から数日中に、約5,000人が司法手続きなしで、逮捕・予防拘禁され、行方不明となった。
32年11月6日の選挙では、66.9%の選挙人がナチス以外の政党に投票した。
『 緊急事態宣言 』 下、1年後の33年11月12日の総選挙(投票率95%)では、ナチス支持票が、92%であった。
すなわち、32年11月6日の選挙では、ナチスに反対する政党に投票した全選挙人の66.9%のほぼ全員がナチスを支持した。
すなわち、1932年のドイツ人( 32年11月6日の選挙で、ナチスに反対する政党に投票した全投票人の66.9%の人々 )は、ほぼ全員、司法手続きなしの、逮捕・予防拘禁・その後の行方不明を知って、恐怖心と無力感と諦観からナチスを支持した 」。
つまり、「1933年のドイツ人は、緊急事態宣言下の司法手続きなしの逮捕・予防拘禁・行方不明を知って、心は、折れた 」(升永弁護士)のだ。
●緊急事態宣言で、国民主権が自然死する
緊急事態宣言が可能となると、言論の自由も、表現の自由も、報道の自由も、デモも封殺される。
9月に成立した安保法にしても、憲法調査会での憲法学者3氏の違憲発言や、SEALDsの国会前デモがなければ、もっと早く無風状態で成立したのは想像に難くない。
安保法案反対の行動ができたのも、表現の自由が日本にあるからだ。
しかし、緊急事態が宣言され、ナチス・ドイツのようになれば、弾圧される覚悟なしには、海外派兵反対もTPP反対も、プラカード1枚掲げられなくなるだろう。
民主主義が機能するには、単に投票権があれば足りるわけではない。
候補者選択を判断する十分な情報が言論の自由、報道の自由によって提供され、容易にアクセスでき、意見表明や、デモなど政治的行動の自由がなければ、民主主義は機能せず、国民主権は、形式上存在しても、自然死する。
護憲派は、長く憲法改正の焦点として「9条を守れ」をスローガンにしてきたが、来年の参院選まで約9カ月の今、緊急事態宣言条項阻止に重点を移す時だ。
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